上記のような病院や診療所を再生するのに最も有効な法的手続は、民事再生手続である。
以下その理由を具体的に説明する。
(1)売上の減少、仕入れ条件の悪化等を回避できる
一般の事業会社が民事再生手続を申立た場合、まず、従来の売上を維持することが難しく、
次に従来と同様の支払い条件で仕入れることが難しくなる。
そのため、一般の事業会社が民事再生手続を成功裏に終わらせるためには、スポンサーの存在が不可欠とさえいわれる。
この点において、病院や診療所における民事再生手続においては、全く異なる様相となる。
まず、病院や診療所が民事再生手続を申し立てたからといって、これまで診療を受けていた医師が継続して診療をする以上、患者は従来とおり治療を継続するのが通常である。
ましてや、現に入院している患者は、たとえ民事再生手続を申し立てたからといって、そのことを理由に退院することは通常あり得ず、一般事業会社のように、売上が減少することは少ない。
一般事業会社における仕入れに相当する薬剤や医療機器のメンテナンス等の費用の支払いについても、ことが人命に関することもあって、薬品問屋が薬剤の供給を止めるとか、
医療機器メーカーがメンテナンスを止めるとかいった事態は起こりにくく、
支払い条件についても、通常は従来の支払い条件を維持することとなる。
(2)従業員が職場を放棄する可能性が極めて低い
一般事業会社が資金繰りに窮した場合、それを察知した従業員が退職したり、
職場放棄したりする可能性を無視できないが、病院や診療所の従業員は、患者に対する責任感が強く、民事再生手続を申し立てたからといって、直ちに退職するとか職場放棄するとかいった事態となる可能性は極めて少ない。
(3)再生計画案策定が容易である
病院や診療所については、一般事業会社とは異なり、
民事再生手続を申し立てたことによる売上の減少というディメリットが少ないことに関連するが、
売上の予想がたてやすく、且つ、診療報酬の大部分が保険収入によるものであることから確実に入金される。
一般の事業会社のような売掛金の回収リスクはほとんどないといって良い。
従って、収益弁済による再生計画案の策定が比較的容易であり、且つ、債権者の理解も得やすいといえる。
更には、債権者は、現に治療を継続中の患者に対する配慮等もしなければならず、多くは地域に密着した債権者が多いこともあり、
再生計画案に賛成を得られやすい。
(4)別除権協定が容易である
民事再生手続の欠点として、会社更生手続と異なり、担保権を拘束できないことが挙げられるが、
病院や診療所の場合には、一般事業会社と異なり、銀行等の金融機関が担保権を実行してくる可能性は極めて低いといえる。
一般事業会社の場合には、金融機関が担保にとっているのは、他の事業に転用可能な不動産であることが多いが、病院や診療所の場合には、建物や設備に多額の投資をしていても、それは病院や診療所に特化した建物であったり、転用の不可能な設備であったりすることが多く、たとえ金融機関が競売を申し立てたとしても、競落人が現れず、手続が無駄となる可能性が高い。
従って、金融機関は、病院や診療所に対し、担保実行の手続を採るよりは、再生したもらった上で、
別除権協定により、少しでも多くの金額を回収しようとする可能性が高い。
(5)結語
上記のように過大投資等により、債務超過状態に陥った医療機関を再生する手続として、民事再生手続は極めて有効な手段である。
医療機関の経営者は、資金繰りに窮した場合、勇気をもって、再生手続に精通した弁護士の門をたたくべきである。